永い時間と牛飼いの方角、光の声(仮)
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- 2021-2025
- 福島
- 川村文化芸術振興財団 ソーシャリー・エンゲイジド・アート支援 プロジェクト
はるか昔の時代から、人類は災禍を経験した際、その体験や物語りを星の配置とともに記録することで伝えてきました。フランスのラスコー洞窟壁画の有名なシーン「井戸の場面」は、1万5千年前に巨大彗星が現れた瞬間の光景が描かれており、当時の星座の配置と関連づけられています。
春の星座に牛飼い座(牧夫座)という紀元前9世紀からある古い星座があります。2011年3月に爆発事故を起こした原子力発電所から20km圏内の大地が警戒区域に設定され、人間たちがその領域に入れなくなった日、その牛飼い座は、ちょうど子午線上、南天の位置に上がっていました。
2011年の春から秋にかけて、この牛飼い座(牧夫座)が夜空に毎夜上がっていた頃、地上では事故の影響により、人間たちは放射性物質の影響が届かない場所へと避難し、警戒区域内の牛、豚、鶏などの家畜動物は飼育者と離れ離れにならざるを得なくなりました。飼育者不在のなかで、数十万頭の動物たちは畜舎のなかで生き絶え、また千頭以上の牛や豚が無人の地域に放たれました。その後、行政機関の指示によって、生き残っていた家畜動物も殺処分されていきました。なかには、やがて屠殺され肉となったであろう生命であっても、息あるものを皆殺しにすることはできないと殺処分には同意しないと決めた牛飼いの方々が土地に残るか、通うかして、粛々と彼らの世話を続けていました。(現在も飼育を継続されている方々もいます)
いずれの場合においても、古来から続く人間と家畜動物との関係性、人間であるわれらが内なる動物としてのパッションと近代以降、より人間の支配下にありながら圧倒的他者でありつづける動物という存在についての根本的な問いが本質的にあぶり出される機会になったように考えています。
私は旧警戒区域内で牛飼いであられ、事故後も牛を飼育されていた方々に聞き取り調査をして、その語りを集めてきました。
祭祀を模した朗読会ではそれらの語りを口承詩として紡ぎました。警戒区域を円球に捉えた際、その南天に牛飼い座があり、人間の多くは区域外にいて、内には動物たちが残されていた。このコンステレーションを発端にして、古代に残された洞窟壁画のように厄災伝承のための新しい図式を描くこと、物語ることをしたいと考えています。