インタビューセッションセラピー
「交わるとき、あなたの語ることの声」
- 2018
- Yale Union / ポートランド、米国
TERATOTERA祭り2018 / 三鷹、東京
このプロジェクトは、インタビュアー(聴き手)である作家とインタビューイー(語り手)である参加者が一対一で向き合い、一方は他者の発する声に耳を傾け、
他方は自己の内側の声に耳を澄ます、いずれも他者が、そして自己が語りはじめることを待ち、語ることの声を聴くために行われる。
インタビューのテーマは「失われた人(死者)との遭遇と協同」について。はじまりに作家と参加者は「わたしとあなたは必ず死ぬもの同士」という共通点を確認する。その上で、作家によって用意された28項目のさほどかた苦しくない質問に沿って、参加者はインタビューを受ける。
夢の話や見えない存在、死者との遭遇の話、記憶の所在、時間の概念、そして自らの死について、リラックスした状態で時間を十分にかけながら、参加者はインタビューを受ける。インタビュー内容は参加者の許可を得られた場合のみ、録音される。
このプロジェクトは「インタビューセッションセラピー」と名付けられ、アートセンターや美術展の展示会場の空間を仕切り、
心理カウンセリングやセラピーのために設えたような小さな部屋のなかで行われた。
参加者が、夢の話や死者との遭遇の体験をインタビューを通じて語る時、みずからの無意識や、やがて来る死、また死者との交わりをいかに語るのか、
語ることはいかにして可能なのか、語られる「言葉」の用い方、またそれを語る「肉声」に現れる、話す当人にも思い通りにならない微妙な何か、ニュアンスに注目しながら実践は深められ、また記録(録音)される。 (参考・引用文献:「魂にふれる 大震災と生きている死者」若松英輔、「本居宣長」小林秀雄)
実際のインタビューでは質問の後半、参加者が死者の声を再現する過程で、もうすでにこの世界にはいないはずの存在が参加者の声を通して立ち上がり、参加者の声と誰かの声が交わって聴こえはじめる場面があった。それは決して霊媒的なものではなく、わたしたちの記憶のなかにある声が、声帯を通して再び流動性を得たような瞬間だった。
28項目の質問は、作家が2018年の夏に米国・ポートランドでのレジデンスプログラム参加中に実際に体験した出来事をもとに作られている。この出来事に関しては、エッセイという形式で、レジデンスプログラムにおいて発表している。
「エッセイ{ 無題 } 2018年8月1日から16日 ポートランドにて」(日本語版)
”Essay { Untitled } August 1 thought 16 2018 in Portland“ (英語版)2018 / letterpress printing by neuhauspress 翻訳:石橋枝里佳
「インタビューセッションセラピーのための部屋」2018 アートセンターYale Union内の小さなライブラリーを設えて / ポートランド
インタビュー項目
- 1. 今朝、あなたはどこで目覚めましたか
- 2. 隣には誰か、いましたか
- 3. 夢は見ましたか
- 4. どんな夢でしたか
- 5. 眠っている間にあなたはどこにいっていましたか また、あなたの意識は眠っている間、どこにあると思いますか
- 6. あなたはかつていわゆる正夢、予知夢のようなものを見たことがありますか それはどんな夢でしたか
- 7. 夢でかつてこの世界に生きていた人、死者と再会したことはありますか それはどんな夢でしたか
- 8. ある日本のドキュメンタリー映画監督は、インドの川べりを無心で歩いている時、亡くなった息子と「再会」した経験があります。 その「再会」は彼にしかそれを「経験した」とはわからないようなこと。実際には他の誰かと共有できないものですが、 あなたにもあなたの知っている死者との間でそういった経験は、ありますか
- 9. あなたはこの現実の世界で、あなたが日々をおくる日常のなかであなたの知っている死者があなたに呼びかけるのを、 またはその存在に気付いたり、再会したりした経験をしたことがありますか、それはどんな場面でしたか できるだけ詳しく教えてください
- 10. あなたはどこか別の地域や国に滞在している時にあなたの知っている死者を憶い出したことはありますか それはどんな場面でしたか
- 11. 時に誰かが、例えばあなたの知っている死者があなたの眼を使って、目の前の景色を見ているような、時に誰かが、例えばあなたの知っている死者があなたの口を使って、 話しているような、そんなことを感じた経験はありますか
- 12. あなたは過ぎ去る時間の流れの中で永遠につながるひとときを過ごしたことがありますか それはどんなときですか
- 13. あなたは自分が生まれる前から世界があることを信じますか 信じる場合、自分が存在していなかった世界をあなたはどういうふうに理解しますか
- 14. あなたは自分が死んだ後も、世界があることを信じますか
- 15. 自分が死んだ後、あなたという存在は、あなたという長い時間を生きたその総和は、一体どこへ流れていくのでしょうか
- 16. 自分が存在しない世界をあなたはどういうふうに理解しますか
- 17. あなたの記憶はどこに蓄積されると思いますか
- 18. 今日はもう二度と来ない一日だと思いますか
- 19. 過去には二度と戻れないと思いますか
- 20. 死者をよみがえらすことはできないと思いますか
- 21. あなたの知っている死者が生前話していたことや書き留めていたことで話せることがあれば話してください
- 22. それを、まるでその方が、死者(彼、彼女)が話しているみたいに、本人が話しているみたいに、または本人が何かに書き留めているときの心の声のように演じて、私に話してみてください
- 23. あなたの知っている死者は、その方は、あなたに呼びかけるとき、あなたのことを何と呼んでいましたか
- 24. それを、まるでその方が、死者(彼、彼女)があなたに呼びかけているみたいに、本人があなたに呼びかけているように演じて、その「声」をわたしに聞かせてください
- 25. 死者の存在は、彼、彼女たちの存在は、いま、どこにいると思いますか
- 26. あなたが死ぬとき、あなたは消滅すると思いますか
- 27. 今夜、あなたはどこで眠りますか
- 28. そのとき、隣には誰かいますか
ポートランドでのレジデンス中に現地の住人、同じくレジデンスに参加しているアーティストを含め11名の参加者と「インタビューセッションセラピー」を実施。対話はすべて録音している。
この「インタビューセッションセラピー」で録音した、インタビューアー(聴き手)としての作家の声、
インタビューイー(語り手)として自身の体験を語る声は許可を得て、レジデンスプログラム中にサウンドインスタレーションとして発表。
実際にインタビューセッションセラピーを行った空間にスピーカーユニットを設置し、インタビューアーとインタビューイー不在の空間で、
夢や死、存在を巡る両者のやりとりの声の音響だけが交錯する場面が再生された。
「インタビューセッションセラピー」の実践は、2018年10月にOngoingギャラリー、chiyoda3331のライブラリーで再び行われる。アーツカウンシル東京、Ongoingが主催する「TERATOTERA祭り2018 Walls –わたしたちを隔てるもの-」(2018年11月)では、新たなサウンド構成を構築しインスタレーションを発表した。 こちらの展示ではスピーカーとそれに向かって腰掛ける椅子の一対が7セット設置される。観客は椅子に座り、 正面のスピーカーから聴こえてくる見知らぬ誰かの声とその存在に対峙する。空間全体から聴こえてくる複数のコトバに耳を澄ますと見えない存在や夢の世界、死生観について、声同士が語り合っているような交響的ドキュメンタリーの生成に気づかされる。