Seil

  • 2013
  • New Zero Art Space

ひとりの女が会場に現れ、櫛をつかって身体と髪を梳かしはじめる。
櫛は女の、はだけた背中のあいだを出入りし、女の姿をうつす鏡にもなる。

やがて女は櫛をひざにおき、
頭頂の髪の毛を三束すくい、ザイルのように編みこんでゆく。
小声で歌をうたい、その歌の一節で一束、一節で一束と、
順に編みこんでゆく。

女の髪の毛は、女にとって従順ならざる毛ではない。

女は編み上げた髪を、結い終えた手で握り、
櫛の鏡を覗き込む。
鏡にうつすは、いつの姿。
いつからみて年老いた、いつからみて若いと映る...

名をもたない男が客席から登場し、
女の編み上げた髪の束を掴む。

男は、女を振り乱しはしないが
けっして女の編み上げた髪を手離すことはない。

男はなぜ、女の髪から手を離さないのか、
それを言葉で語りきる自信などないまま、掴んで離さないのだろうか。

しかし、女の編み上げた髪は、男が思っているより
はるかに女と固く結ばれている。

女の髪の束は、きわめて強靭で究竟だから。

男がなんらかの拍子で力を込めた。
その反動で女の首にはちからがはいり、掴まれた髪の束ごと、男を引っ張りあげる。

引っ張られた男は、離さまいとして、きつく女の髪を握りしめた。

女の編み上げられた髪を掴んで離さない男と、
自らと固く結ばれた髪の束を掴まれたまま、踊るように動きはじめる女。

やがて
女は、髪を掴んで離さない男のちからに抗いながら、
次第に男の力をも、編み上げられた髪の束を通してとり込んでゆく。

2013年、急激な民主化の波が押し寄せていたミャンマー・ヤンゴンでのパフォーマンス。ひとりの女が歌いながら、自分の髪を梳かし三編みを編む。編み終わる頃、顔を隠した人物が客席から現れ女の編んだ髪を掴んで捕えようとするが、女は髪を掴まれたままはげしく踊りはじめる。

  • Seil
  • 2013
  • 素材 : 櫛, 髪
  • サイズ:寸法変数
  • パフォーマンス
  • New Zero Art Space / Myanmar, Yangon