Polyphony 1945ポリフォニー 1945 @ 資生堂ギャラリー

  • 2019
  • shiseido gallery / 東京

震災から8年が経とうとしている。現在の都市・東京は2020年の「東京オリンピック」に向けて(※1)、もはや抗うことのできない大きな波のなかにいる。8年前からみた現在の「日本」は希望を湛えているように見えるのか、それとも喪失したものが何であるかの思考を一旦棚上げにすることで未来に向かおうとしているのか。失うことの現実感そのものが風化していくような気がしてならない。

今回の展示ではやはり時代の大きなベクトルが人々を支配していた昭和20年、1945年にスポットを当てる。時代の影にいた女性たちの視座から体験した戦中、敗戦、戦後の世界を、彼女たちが実際にやり取りした手紙のテキストを、声を出して読むこと、発語すること、演じることを通して、失われた声を取り戻し、またその声自体が当時、彼女たちが失ってしまったものを顕在化させる。ボイスサウンドインスタレーション空間のなかで私たちはその追体験をすることで、みずからが失ったものについても考えを巡らす機会を得る。

声は1945年の3月、女性たちが都心の女学校を卒業した直後から始まる。卒業後は各自の事情で地方に疎開するため、彼女たちの経験、運命は移動した先の場所性で大きく異なる。安全な地にいた者、東京の惨状に身を置いた者、広島の山奥に疎開し、田舎はつまらないからと勇んで都市にでて原爆に遭った者(彼女からの元気な声は途絶える)。友人たちの結婚の知らせに沸き立ちながら、思い出の学び舎、ピアノ、自宅が焼失し何のために生きているのか嘆き、原爆投下後の錯綜する安否情報に戸惑い、それでも戦争が終わって今後の自分たちの将来に夢を馳せる気持ち。

実際の時系列に沿って並べられ、並行的に再生される、いくつものモノローグやエピソードを語る言葉は同年代の若い役者の声を通して蘇える。手紙をいま綴っているようなライブ感のある声は、所々で交差し合いながら、多声的な音響ドキュメンタリーを構成する。

そうした多声の混合が1945年の女性たちの群像を呼び起こす媒体となるとともに、私的なものとして区別・差別されてきた女性たちの語りを資生堂ギャラリーの空間で、いま、パブリックな声にする。

「shiseido art egg 展覧会のためのステートメント」
2019.1.29 

※1 実際の「東京オリンピック2020」はコロナウィルス感染症のパンデミックによって2021年に開催が延期された。covid-19の出現により、2020年は人間の都合で策定されていた計画や筋書きが、ことごとく中止もしくは変更が余儀なくされた年となった。(追記 2022.2.11)

(c)Kiyono Kobayashi

(c)Kiyono Kobayashi

  • 《Polyphony 1945》
  • 2017-2019
  • 10チャンネルサウンドインスタレーション、ミクストメディア
  • 39分
  • 出演:碧さやか 清泉ほだか 陣内薫 武田萌花 田中志朋 宮代琴弓 侑子
  • 演奏:中江彩芽
  • 録音:小林清乃
  • 記録撮影:大島綾 金子裕亮 佐野真弓
  • 音響技術協力:横溝千夏
  • サイズ:可変
  • 場所:shiseido gallery / 東京